2010-01-01から1年間の記事一覧

第四十五話 ◆ 若杉窯の青手

若杉窯(現小松市若杉町)の製品の中に 時々、吉田屋に似た青手作品を見受けます。 これが“吉田屋の先駆”なのか“後追い”なのか、 見解は分かれています。 これはけっこう重要な問題で、“先駆”だとしたら 幕末青手九谷は若杉窯から始まったということになりま…

第四十四話 ◆ 気になる蓮代寺窯

蓮代寺窯 色絵石畳文古九谷写平鉢 (九谷名品図録 平成12年 石川県立美術館 p83) 「これがこの窯の代表作」と言うのでは、 少しかわいそうだな、と思います。 しかし実際のところ、多くの九谷焼紹介で 蓮代寺窯の作例として出されるのは、この平鉢なのです。 …

第四十三話 ◆ 幕末青手の裏文様

今回は、幕末青手の裏文様のうち、 典型的と思われるものをいくつかご紹介します。 「渦雲文」 これは松山窯などの復古的な部分(古九谷への先祖返り)を 象徴する文様だと思います。青手古九谷でよく見ますが、 吉田屋では初期のものに散見される程度です。…

第四十二話 ◆ 松山窯のベタ高台

発掘調査などの学術的な裏付けがあるという意味で、 数少ない“松山窯の特徴”の一つに、高台の形があります。 松山窯展でも紹介されていた「ベタ高台」です。 同展での表現を借りれば「断面が台形状」であり、 「カンナで削りだして高台づくりをしたもの」で…

第四十一話 ◆ 松山窯と青九谷諸窯

画像の波千鳥文の酒盃は、九谷焼美術館の松山窯展で、 同手が出品されていました。 しかし数年前には別の施設で、 「九谷本窯製」として陳列されていたことがあります。 松山窯製と九谷本窯製を厳密に仕分ける基準は、 自分にはわかりません。 何度か触れて…

第四十話 ◆ “献上手松山”の品格

献上手松山、と言われても 耳なじみはないかも知れません。 自分も、加賀のある古美術商から 教わったことがあるだけです。 画像の盃は献上手松山の例として、 その方が見せて下さいました。 普通の松山との大きな違いは、 クリーム色がかって柔らかみがある…

第三十九話 ◆ 藩窯時代の作風とは

「パワー」とか「アバンギャルド」といった言葉で 松山窯の魅力を説明しましたが、 むしろ「洒脱」や「洗練」などの表現が似合う上手作も たくさん存在しています。 去年末から今年初めにかけて 石川県九谷焼美術館で開かれた 「九谷松山窯伝世名品展」では…

第三十八話 ◆ 粟生屋源右衛門の夢

あえて大胆な想像をするならば、 あの素晴らしい吉田屋後期の青手作品は、 粟生屋源右衛門にとって、必ずしも 理想とするものではなかったかも知れません。 前話で鼠素地のことを書きながら、そんなことを考えました。 初期の素地は、ほとんどが鼠素地だった…

第三十七話 ◆ 伝統となった鼠素地

左が徳利、右が小皿の高台部分。典型的な「鼠素地」です。 灰色というか、黒ずんでいるというか、 とにかく純白でないのが一番の特徴。 細かな不純物も多数、素地の中に見られます。 幕末青手の素地が全て灰色というわけでなく、 クリーム色がかった素地もあ…

第三十六話 ◆ 花紺青の謎

画像は典型的な花紺青が使われた、松山窯の朝顔文です。 花紺青は、日本で伝統的に使われてきました。 日本画で古くからある色で、京焼でも使われているようです。 ただ、失透性が高いため、 色が淡いだけでなく濁った感じになります。 色釉の透明感が売りの…

第三十五話 ◆ 松山窯の四彩

(左)吉田屋窯の四彩 (右)松山窯の四彩 九谷焼における青手(四彩)の伝統を 再復興させた松山窯ですが、すでに見てきたように 吉田屋の製品とは作風に違いがあります。 見慣れてくると絵の感じだけでなく、四彩の色調にも 微妙な差があることがわかってきま…

第三十四話 ◆ 青手古九谷を写す

青手古九谷の図柄を写した作品が見られるようになるのも、 松山窯の特徴です。下の画像の鉢はその一例。 ほぼ同じ図柄を描いた古九谷の中皿があります。 第八話でも触れましたが、吉田屋にはこういう、 図柄をそのまま古九谷から引用しているような作品は あ…

第三十三話 ◆ アバンギャルドな小皿

松山窯の絵の面白さは、四寸足らずの小皿でも 十分に見て取ることができます。 前話でご紹介した徳利の絵よりは一見、線描は端正ですが、 こんな風景が実際にはあるわけがないことは、 すぐに気付くでしょう。 岩の穴からはみ出してくる牡丹の花も、 羽を閉…

第三十二話 ◆ 幕末青手の絵のパワー

同じ青手でも、松山窯の作風は吉田屋とかなり違います。 特に異なるのが、絵から受ける印象です。 画像は、松山窯の六角徳利の側面です。 山や樹木が描かれる、いわゆる山水図ですがどうでしょうか。 情念。私の場合、浮かぶのはそんな言葉です。 吉田屋の持…

第三十一話 ◆ 松山窯の使命

たしかに宮本屋窯でも青手は作られていたと思いますが、 量は限定的だったでしょう。 古九谷以来、百数十年ぶりに吉田屋窯で復興された青手は、 そのままでは再び断絶していたかも知れません。 それを“再復興”し、現代までつづく流れを決定づけたのは、 嘉永…

第三十話 ◆ 小野窯の八郎手の謎

宮本屋編のエピローグとして。 この小皿の表側だけ見れば、どう考えても八郎手です。 しかし裏返すと、再興九谷ファンには一目瞭然の「小野」銘。 素地も宮本屋とは異なり、これは現在の小松市で焼かれていた 小野窯(1819年~1872年ごろ、文政二年~明治五…

第二十九話 ◆ 未完成面も含めての魅力

宮本屋は、緑や黄色の補色が使われているものが 上手とされます。 この小皿はそれを証明しているかのようです。 ただしよく見ると、緑や黄色の色釉は溶けきっていません。 一般に、宮本屋作品における補色の発色は 良くないことが多いです。 ガラス質である…

第二十八話 ◆ カイラギが意味すること

吉田屋とも共通することですが、 宮本屋の高台の際には、よく「カイラギ」が現れます。 高台に掛けた釉薬が縮んで、シワのようになったり、 隅まで掛かり切らずにいる状態です。 陶器の井戸茶碗などでは 見どころとして珍重されたりしますが、 磁器を目指し…

第二十七話 ◆ 絵よりも素地に真価?

吉田屋の項でも触れた『定本九谷』の 著者・松本佐太郎氏は、 宮本屋窯について意外な評価をしています。 誰もが宮本屋窯の代名詞と考える 飯田屋八郎右衛門の絵付けよりも、 土台となっている素地の方を高く買っているのです。 『八郎手の妙味は私は絵付よ…

第二十六話 ◆ 宮本屋の「赤」の個性

わずかな違いが個性と呼ばれ、伝統へとつながります。 左が宮本屋窯の小皿。 右は同時代に赤絵細描を手がけていた 小野窯(石川県小松市)の小皿です。 比べていただきたいのは、「赤」の微妙な違い。 画像では差が伝わりきらないかも知れませんが、 宮本屋…

第二十五話 ◆ 八郎右衛門の風格

飯田屋八郎右衛門の魅力は、 前回触れたデザインセンスの良さの他に もう1つあると感じています。 それは、線描にあらわれる独特の味わいです。 左が八郎右衛門の徳利、右が孫弟子にあたる 大正前後の名工・初代中村秋塘の徳利です。 ほぼ同縮尺の両者のア…

第二十四話 ◆ 方氏墨譜の役割

九谷焼の解説本で 飯田屋八郎右衛門についての項目を見れば、 たいていこんな風に書いてあります。 “越前気比神宮に伝わる「方氏墨譜」に啓発されて(または、 高尚豊富な画題を得て、など)、赤絵細描を完成させた”。 要は、中国の古い図譜集(いわばイラス…

第二十三話 ◆ 百年続いた八郎手

宮本屋窯の絵付け主任、飯田屋八郎右衛門の存在は大きい。 何しろ宮本屋窯は「飯田屋窯」と呼ばれることがあります。 (吉田屋窯は決して粟生屋窯とも鍋屋窯とも呼ばれません)。 八郎右衛門の赤絵細描スタイルは「八郎手」と 呼ばれるようになりました。 八…

第二十二話 ◆ 改革の切り札 赤絵細描

宮本屋の赤絵細描。 吉田屋ではほとんど使わなかった「赤」で、 器表面の大半を埋めつくす。 吉田屋の真逆、と言っていいスタイルです。 同一の窯を使って、ここまでドラスティックな転換が 行われた例は、珍しいのではないでしょうか。 宮本屋宇右衛門は、…

第二十一話 ◆ 宮本屋の経営改革

今回から宮本屋窯を扱っていきます。 画像は第九話でも触れた、山代の九谷焼窯跡展示館の覆屋内。 吉田屋の窯跡であるのと同時に、宮本屋の窯跡でもあります。 宮本屋窯は天保三年(1832年)、吉田屋の閉窯の翌年から、 山代の窯をそのまま引き継いでスタート…

第二十話 ◆ 吉田屋の評価

終焉から180年。歴史の中で吉田屋の評価は必ずしも安定していませんでした。むしろ、“古九谷の亜流”的な扱いの期間が長かったように思われます。 九谷焼の歴史の底本としてよく使われる、松本佐太郎氏の『定本九谷』(昭和15年)では、古九谷のことは絶賛して…

第十九話 ◆ 吉田屋その後

吉田屋窯のオーナーだった豊田家は、 天保二(1831)年に経営権を番頭の宮本屋宇右衛門に譲り、 窯は「宮本屋窯」に衣替えしました。 製品の生産は途絶えませんでしたが、 絵付けも素地作りも、担い手が交代しました。 新しい絵付け主任、飯田屋八郎右衛門の技…

第十八話 ◆ 最後まで全盛期

(古九谷浪漫 華麗なる吉田屋展 2005年 朝日新聞社 p105) この鉢を、所蔵者のご厚意で拝見したことがあります。 貴重なことに同時代の共箱に入っていて、 蓋には「天保二卯年」「九谷焼丼鉢」などの文字があります。 天保二年(1831年)は、まさに吉田屋の“焼き…

第十七話 ◆ 吉田屋の角福

吉田屋の裏銘と言えば「角福」。 確かに、ほとんどの吉田屋製品にはこれがあります。 試しに平成14年の「吉田屋名陶展」 (石川県九谷焼美術館)の図録で数えてみたら、 掲載57点中、少なくとも51点は「角福」でした。 (あとは不可読文字や無銘、あるいは 写真…

第十六話 ◆ 金魚藻唐草のこと

見れば、語源は一目瞭然。 金魚鉢の中に生えていそうな、葉が長くつながった水草を 思わせることから「金魚藻唐草」。 おそらく吉田屋全作品中、 もっとも多く使われている特有の唐草文様です。 理由は単純に、手早く描けたからでしょう。 古九谷にこんな唐…