第五十五話 ◆ 結び付く記憶

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河島洋さんの新作酒盃を手に入れたのは、2月の中旬でした。
パソコン机のすぐ脇の棚に飾っていました。
ひと月も経たないうちに、それは陶片となってしまいました。
言うまでもなく、3月11日のことです。

河島さんは長年、吉田屋の再現に取り組み、
年々新たな境地を見せています。
見込みに鶴を描いたこの作は、色にも骨描きにも
彼の前進し続ける意志が感じられました。
いずれこのブログで紹介ができればと思っていました。

もちろん、やきものが一点壊れた事実自体は
今、語るに値するようなことではありません。
ただ極めて個人的なことを書かせてください。

歴史に深く刻まれることになる「3月11日」と、
それ以後の日々。
津波や、原発や、計画停電や、緊急地震速報
被災地の苦しみは無論のこと、
まるで目を覚まされたかのような多くの日本人の姿。

忘れるわけにいかない記憶の数々は
自分の場合、この、幅10センチほどの陶片と
不可分に結び付くことになります。
これを見るたびに、思い出すことになります。

倒れた棚はその日のうちに起こしました。
この陶片は、以前と同じ位置に置いています。
パソコンに向かう時、それはすぐに目に入ります。